第20章 甘い水
次に目が覚めたのはフロントからの電話だった。
綺麗にしてやったからすぐに帰れる状態ではいたが、疲労感は否めない。
「くそ、ほとんど寝れてねえな…」
まだ寝息のままのるるを担ぎ、会計をして出た。
「見つけたから、今から帰るぞ」
心配そうにしてるお袋サマに一報入れ、いつもの煙草に火をつける。
起きてからるるがどれだけ自分を追い詰めるか心配だった。
改めて家に電話してから、
「一緒に念のため病院行ってくる」
と適当な嘘をついて帰り時間をずらした。
幸い、今日は車を使うような配達はなかっただろう。
人気の来なさそうな海沿いをのんびり走り、目を覚ますのを待った。
朝日が眩しい。
オレンジの光が反射して窓から入ってくる。
「…ん」
「起きたか」
るるはゆっくり目を覚まし、やっとあらゆることを認識した。
「ご、ごめんなさい…!」
「お前は悪くない」
「でも!!」
「無事だった、何もされてねえ。
それだけでいいんだ」
案の定軽いパニックだったるるが矢継ぎ早に自分を攻める。
他のことだって、全部自分だけで抱えてきたんだろう。
ぐいっと腕を掴んで引き寄せる。
「!」
「昨日のは、俺も油断してた。
俺のせいでもあるんだ」
「そ、そんなこと…!」
「あるんだ!」
「……」
「危ない目に遭わせた……。
もう、怖い思いさせないって言ったのにな…」
深い謝罪。思わず泣きそうになる。
るるは小さく、そんなことない、と呟くと、ゆっくり俺の胸元に収まる。
「煙草のにおい……」
「あ、悪い。つい……」
「ううん、落ち着きます」
掠れた声がじんわり耳に沈む。
確かにそこにある暖かみを感じて、安心する。
潮と花の香りが車内を満たしていった。