第3章 T Of A story
川に着いたおばあさん、早速と洗濯に取り掛かります。
すると程なく、川上から大きな桃が流れてきました。
スンスン
おばあさんは鼻をならすと、桃の匂いを確かめます。
(あの中には……)
その間にもどんどん桃はおばあさんの元へと流れてくるではありませんか。
「…眼鏡」
おばあさんは一言呟くと、近付く桃へと手を伸ばします。
そうして桃が掌に触れるや否や、力一杯押し返しました。
いや、待ってください!
押し返さないでください!!
拾ってください!ミケ分隊長!!!
「おばあさんだ」
そうでした、おばあさんでした。
ってそうではなく!
お願いですからっ!
拾ってくださいぃい!
あぁぁ…、流されていく……
「後でお前が拾っておけばいい」
そう、ですね。
(もうこれ、桃太郎じゃない気がするんだけどな…)
こうして、無事洗濯を終えたおばあさんは川を後にしました。
「お帰りなさい。あら、桃は…」
「心優しい苦労人が拾ってくれる」
「……?」
「カリン、お前は何も心配しなくていい」
「はい。おばあさんがそう仰るなら」
おばあさんを心から信頼し、笑顔で頷くおじいさん。
そんなおじいさんの頬をそっと撫でるおばあさん。
(あぁぁ、ちょっ、キスなんて台本にないよ…!)
…
…
…
(…もう、いいかな?)
こうして、おじいさんとおばあさんは今までと同じく平凡ながらも幸せな日々を、二人きりで過ごしましたとさ。
おしまい
(さてと、桃、拾いに行こう……)
了