【文ストR18】hide and seek【江戸川乱歩】
第1章 猫の君 R18
飄々としていて掴み所がない。
私の彼氏は、自由きままな猫のような男だ。
「…ふざけてるっ」
だんっ!とまな板から鈍い音が響く。
私は怒りのままにジャガイモを半分に切った。
だれか聞いて欲しい。
人の職場の喫茶店に急にやってきて「今日、僕カレーが食べたいんだけど」とかぬかして、ご注文は以上ですか?と営業スマイルしてやったら「夜だよ、夜。じゃーね!よろしく!」とだけ言って注文もせずに帰って言った営業妨害野郎のために、どうせ家にはなんもないだろうからジャガイモ人参玉葱お肉にカレー粉福神漬け、ついでにりんごとはちみつまで買い揃えて部屋に向かったら。
ちょうど扉が開いて。乱歩が出てきたわけ。
「あ、侑芽、ちょうど良かった!今から僕国木田に奢ってもらってくるから。中勝手に入ってればいいよー」
そう言ってるんるんと出ていった乱歩。
は?奢られる?
カレーはどうすんのよ!?
そう問い詰めようと思った時にはもう、奴の姿は無く。
おい。お前まじふざけんな。この食材どーすんだ。
しぶしぶと部屋に入り、重たかった買い物袋を床に下ろして。
「こうなったら、すっげー辛いカレー作って置いておいて帰ってやる…!」
乱歩は甘党なので、カレーも甘口好みなのだ。甲斐甲斐しくも私はりんごの摩り下ろしと蜂蜜までカレーに入れてやっている。
今回はそこに辛味パウダーめっちゃ追加してやるんだから…!
そんなこんなで、いらいらと野菜を切っていたのだ。
付き合い始めて半年ほど。出会いは私の喫茶店で、レジのお金が合わないってことがあって。危うく濡れ衣着せられそうだった私を、飄々と助けてくれたのが、乱歩だったのだ。あれは、私を助けてくれたっていうのかは今となってはわからないが…とにかく、その時の私は、その姿に一目惚れして。
猛アタックの末、無事お付き合いしているのだけど。
デートらしいデートは一度もなく。
大体この家で飯作って、部屋が荒らし放題なのを整えて、あとはまあーーすることはしてるけど。