第1章 前編
広大な海が広がるこの世界に、たった1つだけある魔法学校。
その名をアマルティアと言う。
名門中の名門と言われるその学校は、世界中から金持ちのご子息・ご令嬢が集まってくる。
そしてその場でしか学ぶことが出来ない魔法。
この世界には多くの魔物が存在している。
その魔物に対抗するためには魔法が必要だ。
もちろん魔法以外でも倒すことは出来るが、魔法があるのとないとでは命を危険に曝す可能性が違ってくる。
だからこの世界に住む人々は、その魔法学校に我が子を入れたがる。
だが、定員には限界があり、結局は金持ちの貴族しか入学できないのが現状だ。
その貴族は天竜人と呼ばれている。
一般市民が魔物に怯えて暮らす一方で、天竜人は金で護衛を雇うこともできるのに、魔法学校の定員すらも奪っていく。
魔法学校が創立されて、数100年が経つ。
そこに通うことが出来た人間は、ほぼ天竜人が占めていたと聞く。
中には奇跡的に一般人も入れたことがあったが、天竜人の嫌がらせに耐えきれず、皆退学していった。
そんな中、久しぶりに今年は一般人が入学してきた。
その名をユーリと言う。
彼女は一般家庭よりも下の、貧困世代に生まれた子供だった。
貧困でも、彼女は優しい家族に囲まれて幸せな毎日を過ごしていた。
だけどその家族も時が経つにつれて、1人、また1人と死んでいった。
皆魔物に襲われたのだ。
そしてそんな彼女が16才になった時、最後の肉親であった母親も魔物に襲われてしまった。
もちろん病院へ行くお金はない。
そんな母親が死ぬ前に残した最後の言葉。
それは、ユーリを魔法学校へ通わせるものだった。
ここ数年、死ぬ気で貯めたお金を使い、既に手続きを済ませていた。
どうかあなただけでも、身を守る術を学んで、生きて欲しい。
それが母が伝えた最後の言葉だった。
ユーリは母を看取って泣き続けた。
そして彼女は母の遺体を燃やし、長年住んでいた町を離れた。
向かう先は、魔法学校。
母の思いを、願いを、ユーリはしっかりと胸に刻んていた。