第1章 アネモネの夢00~50
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服も切り裂かれて流石に覚悟を決めた直後、雹牙さんと黒羽さんがベランダから飛び込んできたのが見えてホッとした。
元カレが片手で持ち上げられるのを間近で見ちゃったけど、黒羽さんも細身なのにあれかな、細マッチョ。
そんなアホなことをぼんやり考えていたらパサリという音がして、次の瞬間には身体が浮いていた。
そのまま何かを言う間もなく戻ってきた同期にも黒羽さんが何か告げているけど、流石にそれを聞く余裕はないなぁ。
雹牙さんが持ち上げてくれたことも、どこか夢心地だけどデジャヴです。
そのまま車に運ばれて市ちゃんに抱きしめられて、その温もりに堪えていた意識もプツリと落ちた。
「うー……よく寝た!」
「やっと起きたのか」
「あ、雹牙さん。おはようございます!」
あれから、気を失った私はそのまま織田のお家に運ばれて、翌朝までぐっすりと眠り込んでいた。
起きたら市ちゃんが真剣な顔で覗き込んでて、悲鳴を上げそうになったのはココだけの話だ。
翌日はそのまま有給を捩じ込まれて、翌々日も重役出勤を厳命されて、本日は通常のお休みです。
起きてリビングに降りてったらラフな格好した雹牙さんが居て、時計見ながら呆れたような声を掛けられた。
釣られて時計を見た私も流石に寝過ぎたと、視線を逸らしたらポンポンと頭を撫でられた。
なんとなく、こう、そわそわする。この撫でられる感覚はすっかり慣れたつもりだったのに、なんかちょっと頬が熱い気がする。
「どうした?」
「あ! え?! な、何でもないです!」
「そうか? ああ、そういや体調は?」
「それはすっかり! 週明けからは普通に出勤出来ます。元の部屋に戻る準備もしなきゃ」
私の自分でもよくわからない違和感に気付いたのか、雹牙さんに聞かれて慌てて首を振ると話題を変えてくれたのでそれに乗っかる。
その延長で自分に関係する人間は居なくなったから、私がここでお世話になる理由はない。
久しぶりの大人数での生活は楽しかったけど、これ以上はお世話になれない。
それに気付いて口にしながら、寂しいなんて思っちゃった。
「そうだな。運んでやるから纏めとけ」
「はーい」