第1章 アネモネの夢00~50
もぞりと気配が動くのを感じて、神経を研ぎ澄ませば3つめの気配。百合が起きたのかと思えばボロボロのマンション故か部屋の通気口から3人の会話が聞こえてきた。
誰かを殴る音、男の怒鳴り声、女の蔑むような声。その中に「雹牙」の単語が聞こえて目を見開いた。
『そんな性格ブスのままじゃ、どう頑張っても雹牙さんの視界には入らないわね』
『っ! あんたっ! ちょっと気に入られてるからって生意気よっ! あんたなんかその男にヤられて雹牙様にも捨てられれば良いわっ!』
原因俺か。
黒羽は雹牙の零した言葉に苦笑いを浮かべて、突撃しましょうと合図を送る。
恐らく女の気配が移動したのだろう、雹牙は婆娑羅でベランダの硝子を凍らせたあとで思い切り蹴り上げて割った。
「な、なんだ!?」
破壊されたベランダの戸の硝子は飛び散る事無く下に落ちているのを確認し、黒羽は百合の上で服を裂いていた男の胸倉を掴み頭上に持ち上げる
男の情けない声が聞こえたのか何事だと部屋に戻って来た女は、侵入者2人の顔を確認してから目を見開く。
「雹牙様?なんで、この女を助けに…!?黒羽様も…」
「申し訳ありませんねえ、結構前から貴女を危険人物としてマークしてました」
「さっさと警察に捕まる事だ、二度と織田にも関われぬと思え」
黒羽は胸倉を掴み持ち上げている状態で情けなくもがいてる男を地面に叩きつけ、手を離すと女の首を掴み地に伏せ。悔しそうに百合を睨む。
女の視線を無視して羽織ってる物を脱いで雹牙は百合にかけて抱き上げるが、片足は唸る男の頭部を逃がさぬ様に踏んずけている
「…で?殺した方が良いか?」
「穏便にお願いします…」
怪我を確認すると頬が赤くなっていたが、それ以外大丈夫だなと頷いてからスマホを操作して合図を送る
「黒羽、撤退するぞ。この男を血眼で追ってるサラ金の者が来る」
「了解しました。さあ、貴女は警察です。この男の為に働かされる可能性もありますが」
「い、嫌ああ!」
「ひいいいい!」