第3章 砂漠の月151~172【完】
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同棲を始めてからというもの、着物を着る時間が無いので簡単に洋服を着るようになった。
着物と違い身体のラインを強調するのが多いというか、私が好んで着てるんだけどね。
暑さが厳しく、キャミソールとジーンズでラフな恰好をして買い物をすれば
馴染みのおばちゃん、おいちゃんが買ってくか?と商品を見せてくれる。
「市ちゃん元就の坊主と結婚かー、あんなにチビだったのに大きくなって」
「おじさま、恥ずかしいから思い出さないで…」
「今日は何するんだい?良い魚が入ってるよ!」
「おばさま、お魚見たいな」
「あいよ!」
今日は可愛い格好だね、と褒められて、あんまり見ないからね、洋服。
お魚を見せて貰えば新鮮なお魚を見てお刺身かな?と考える。
大根を手に取り購入しようと声掛けると
店員のおじさま、おばさまが嬉々としておまけだと値下げしてくるんですがいいんですか?
下町の商店街だからこそできる技ですよね。
買い物袋の中をチェックして、帰路につくとコツコツと響く自分の足音を聞いていたら違和感を感じてその場に立った。
「?」
はて、今自分の足音の中に別の音も聞こえた様な。
まあ、いいかと再び歩き出し、気配を探ると後方に1つ、一定の距離を保ったままくる人がいる?
いや、まさかなと脳内で浮かんだ単語を消去し、たまたまだと言い聞かせて家に帰った。
「それは…ストーカーではないのか?」
「市ってつけられる様な事した?」
家で寛いでた元就に今の事を言えば、心配そうな目を向けられたけど
まあ、私にゃ無い無いと軽く否定すれば聞こえる溜め息に頬を膨らます。
眉間に皺を寄せたままLINEで誰かに連絡をしてる元就を横目に、米をといで大根をつまの細さまで切って魚を捌く
良い魚があったから今日は刺身だよ、と。