第2章 砂漠の月71~150
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最近はお泊り会は四人だが、翌日は元就と市、晴久と月子に別れて行動することが多かった。
今日も晴久が月子を連れて出かけると言い、市の家には元就だけがいた。
「ねぇ、元就。市もデートしたい……」
「今しておるではないか」
「これ、デート……?」
市の部屋で寛ぎモードの元就は、その膝を枕にして本を読んでいる。
市は膝を貸しながら元就の髪を弄って遊んでいたが、飽きてきたための言葉である。
元就が本を閉じて仰向けになると見下ろしている市と目が合う。
サラリと零れ落ちてきた市の髪に指を絡めて梳くと、ツンと引かれて市が顔を僅かに下げる。
「も、元就?」
「其方の心はもう追いついたか?」
「え……?」
絡んだ視線が真摯で、戸惑いに名前を呼べば僅かに切ない色を足した瞳と問い掛けが帰ってきた。
髪に絡んでいた指は、いつの間にか頬に伸びてゆっくりと撫でていく。
市は、ドキリと心臓が跳ねて息が苦しくなる。
そうして気付く。不意打ちされることはあれど、決して市の心を置いてきぼりにはされていなかったことに……。
そう気付いて、改めて自分の気持ちを振り返れば、確かに元就が誰よりも大切になっていると解る。
「市?」
もし、元就が待ちきれず他の人へ視線を向けたら……そんなことを考えて元就が自分から離れていく恐怖にフルリと身体が震えた。
晴久が月子に視線を向けた時には感じなかった恐怖に、市はポロリと涙を零すと元就の指が躊躇なく触れて拭っていく。
市はその手を捕まえると自分の頬に当て、すり寄せる。
「待たせてごめん、ね?」
「構わぬ。ゆっくりで良いと言ったのは我だからな」
「うん、ありがとう……」
たった一言、それだけで通じたのか元就の顔には市にだけ見せる柔らかな笑みが浮かんで頬に当てている手とは反対の手で頭を引き寄せる。
ちゅっと小さなリップ音が響き、元就の唇が市のそれに触れた。
視線が絡むとそこに柔らかな色が浮かび、愛しいと言われている気がして市の頬が赤らむ。
そして市は少し戸惑った後、自分から唇を寄せた。
一瞬触れるだけの口付けとは言い難い物だが、元就は目を見開いて驚き絶句した。
市は珍しいその表情に紅い顔でふんわりと笑うと、そっと大切に言葉を紡ぐ。