第1章 いちごミルク
「・・・おい」
ずっと俯いていたから、急に上から低い声が聞こえてきて飛び上がるほどびっくりしてしまった。
「ひゃっ!!・・・え?な、なんですか?」
そこにはいなくなったと思った山崎宗介がいた。
「・・・観察に邪魔だろ。荷物、持ってっといてやる」
「え・・・」
「・・・ほら、貸せ」
「へ?わっ!ちょ、ちょっと!」
そう言うと、山崎宗介は私から強引にスクールバッグとスポーツバッグを奪い取った。そしてそれを左肩にかけると、私に向かってポケットから何かを差し出した。
「・・・あとこれやる」
「へ?」
山崎宗介の手には小さな缶ジュース。それは白とピンクの缶。
「やるって言ってんだろ」
「わ!は、はい!」
ぼんやりしていたら、山崎宗介は強引に私に缶を押し付けてきた。慌ててそれを受け取る。
「・・・そんじゃな」
それだけ言うと、今度こそ本当に行ってしまった。手の中の缶を見る。
・・・こんな時までいちごミルクなんて・・・
「・・・っ・・・山崎宗介のばーか・・・」
そのいちごミルクの缶はじんわりとあたたかくって、なぜかわからないけど、また少し泣きたくなった。
しゃがんだまま、ゆっくりといちごミルクを飲むと、あたたかさが身体中に広がって、少しお腹の痛みがやわらいだ気がした。
「・・・うん、これなら鮫柄まで行けそう」
・・・さっきは『ありがとう』って言いそびれてしまった。後で会った時に言わなきゃ。山崎宗介はどんな顔するだろう。そのことを考えるだけで、なぜか痛いぐらいに胸がドキドキした。