第1章 いちごミルク
「はっ!アリの観察って・・・お前、見た目だけじゃなくって、中身までガキかよ・・・はは!」
「・・・よ、余計なお世話です」
・・・なんで信じちゃうかなあ、この人は!普段、何考えてるかわからないような顔してるのに、すっごい笑ってるし。それにものすごく失礼なことまで言われた!
・・・でも、お腹が痛くて言い返す気力がもうない。
「・・・まあいいや。お前も鮫柄向かってんだろ?俺、先行くわ・・・ま、好きなだけ観察してから来い」
そう言って、私から離れていこうとする山崎宗介。ひとつだけ気になったことがあったので、その背中に問いかけた。
「あ、あの!山崎宗介はなんでここにいるんですか?どっか行ってたんですか?」
普通に考えたら、鮫柄の水泳部員がこんなところにいるなんてありえない。だって授業が終わった後、すぐ部活のはずだから。改札から出てきたみたいだったし、一体どこに行っていたんだろう。
「別に・・・お前には関係ねえだろ」
ただ純粋な疑問をぶつけただけだったのに、目の前に大きな壁を作られた気がした。さっきまで笑ったりしてたのに、山崎宗介の瞳は暗くて底が見えない海のように見えた。
なんでだろう・・・なぜか胸がちくりと痛む。こんな奴に壁を作られたって、別にいいのに。関係ないのに。
「そ、そうですね!すいません、変なこと聞いて・・・私、もうちょっとアリを観察してから行くので先行ってて下さい!」
急に態度が変わった山崎宗介と、それに対する自分の感情に驚いて、慌てて場を取り繕った。
そして、私はどれだけアリ好きな女子高生なんだろう。
・・・結局、山崎宗介は何も言わずに行ってしまった。
・・・ちょっとぐらい心配してくれたっていいんじゃないの?アリの観察なんて、女子高生がするわけないじゃない、ばーか。
それに、『関係ない』なんて・・・あんな顔して言わなくったっていいのに。
人のこと、いつもいちごいちごってからかって。私にはちゃんとヒカリって名前があるのに・・・だからあんな奴どうだっていいはずなのに、なんでこんなに気になるんだろう・・・
・・・なんだかもう、胸が痛いのか、お腹が痛いのかわかんない。