第3章 きみに会えてよかった
「あ!そうなんだ!じゃあこれあげるよ。えっと・・・あ、あった!はいっ!」
『なぎさ』先輩はそう言うと、ごそごそと自分の鞄の中を漁り出した。そして何か掴むと、それをずいと私の前に差し出した。
「イワトビックリパン!部活終わったら食べようと思って半分残しといたんだけど、君にあげる!美味しいよ!」
たっぷりのホイップクリームとマーマレード、イチゴジャムにチョコレートがかかったそれは、岩鳶高校の名物。名前は聞いてたけどまだ食べたことはなかった。
・・・あ、なんかイワトビちゃんと目が合っちゃった。
「い、いえ!そ、そんな、申し訳ないですし・・・」
たった今出会ったばかりの人に図々しくもらうわけにはいかないし、『なぎさ』先輩は部活があるって言ってた。そんな人の大事なパンを、帰宅部の私が食べるわけにはいかない。
「いいからいいから!はいっ!!」
「っへ?!え?あ、あの・・・」
だけど、『なぎさ』先輩は半ば強引にイワトビックリパンを押し付けてくる。思わず勢いに押されて、それを受け取ってしまう。
すると、私達のやり取りを見ていた『れい』先輩が、大きなため息をつく。
「はぁ・・・まったく、渚くんはまたそんな物を食べて。栄養が偏ってしまいますよ。しかもなぜイワトビちゃんの頭部の方を残すんですか・・・はい。僕はこれを差し上げます。非常食としていつも持ち歩いてるんです」
そう言って『れい』先輩が鞄から出したものは、いわゆるバランス栄養食と呼ばれるものだった。
「い、いえ、ホントにもう大丈夫なので・・・」
「遠慮する必要はありません。さあ、どうぞ」
「へ?!あ、え、えっと・・・」
私の手の中に押し込むように渡されて、私はまたそれを受け取ってしまった。
「じゃあ僕達もう行くね!ばいばーい!」
「失礼します。さ、渚くん。少し急ぎましょうか」
「うん!」
そして、呆然としている私を置いて、二人は行ってしまった。
・・・あ!どうしよう。そういえば私、お礼言えてない!
頂いた物を手に慌てて立ち上がり辺りを見渡すけれど、もう二人の姿は見えなかった。
どうしよう・・・
『ぐぅ~~~!!!』
「う、うぅ・・・」
一際大きくお腹が鳴り、とりあえず私は頂いた物をありがたく食べることにした。