【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】
第1章 神の初期刀・前編(加州清光、大和守安定編)
かけられた声は思った通り、限りなく穏やかで優しいものだった。責めることも怒ることもしない静かな瞳に安堵し、抜けていた腰にようやく力が入る。立ち上がり、まだ身体が完全に修復しきっておらず立ったまま動けない緋雨に近づいていく。
彼の身体は絶えず傷口から煙を吐いていた。そこからみるみる内に引きちぎられた肉が、滅茶苦茶にかき混ぜられた臓腑が、傷つけられた皮膚が、時を遡るように元の形に戻っていく。何度目にしても慣れない不思議な光景だ。
そう、彼は刀よりも長い悠久の時を生きる者。撃ち抜かれても挽き潰されても、たちどころに蘇る肉体を持つ不死身の者なのだ。名は緋雨(ひさめ)。日照雨が降る夕時に生まれたのでそのような名前が付けられたのだと、そんな江戸刀である自分では想像もつかないほど遠い昔の話を、いつだったか教えてくれたのを覚えている。
不死身という奇異な特質に、刀剣たちをはるかに凌ぐ強さを併せ持つ男。それが加洲清光の現在の主だ。人間離れした武力を誇る彼がいれば、今出陣しているこの戦場よりも一回り厳しい戦況の場所でも十二分に戦える。けれど彼は刀剣たちを慮り、傷つかぬようにと易しい戦場をわざわざ選んでくれているのだ。
そう、自分は戦に勝利する上で必要ない。敵を一息に薙ぎ払える大太刀などと違って、打刀の中でも特別秀でたところのない自分は間違いなく足手まといでしかないわけだ。
それでも彼は自分を愛していると言ってくれる。必要だと言って、こうして戦場にも連れて行き、傷を負えば丁寧に手入れをしてくれる。今日のこの爪だって、彼が時間をかけて塗ってくれたものだ。
主は優しい。ただの刀である自分を宝物のように大事にしてくれる。
けれどその愛は平等だ。果てしなく。安定も和泉守も堀川も燭台切も鶴丸も長谷部も誰も彼も関係ない。ひとたびこのひとの刀になれば、皆同じ分だけの愛をその身に受けることになるのだ。出る杭は打たれると言うより、そもそも出てくることはない。けれどその量って分けたような愛情に、これしかないとばかりに縋りつきながらどこか空しさを感じてしまう自分もいる。