• テキストサイズ

黒蝶が飛ぶ頃に―陰陽師― R15

第1章 プロローグ



真っ赤に揺らめく水面(みなも)。
劈くようなキツイ匂いと、生温く落ちる涙。

幼き娘はそんな頬に触れる感触に嫌気をさして、白いセーターの裾で頬を拭う。


『血だ……』

だがそこにはベッタリとくっつく血液があった。それは、繊維に染み渡るように白のセーターにじわじわと広がっていく。

でもおかしいんだ。幼女には痛みがない。

『あれ?』

痛みのない身体に、幼女は首を傾げる。
そしてこの血が誰の者なのか、それは赤い血の海に転がる肉片が物語っていた。


『ママ?』


見るも無残なその姿。
数箇所の刺傷に、もぎ取られた腕が筋を成してその辺に落ちている。

いや、それだけじゃない。

女性の傍ら、男性らしき人と怪物が横たわっていた。だが、どちらも息の根はない。

これは、──夢?

思わず目を瞑りたくなる程の光景に、幼女の瞳孔は見開き、荒くなる息遣い。
幼女は嘘だよね?と言わんばかりに、死体に触れては揺れ動かした。


『なんで動かないの? なんで、ねぇなんで!』


起きて、起きてよ!!


『お願いだから、私と一緒に逃げて──』


いくら動かしてもビクともしない身体。幼女が諦めて崩れ落ちるとき、ふと、後ろから足音が聞こえた。


『誰!?』

「これまた随分敏感な娘やねー」


あの日はよく出来た満月だった。
白く輝きを放つそれは、ちっぽけな私たちを照らし、そしてそれは──


『貴方は』


「俺かいな? 俺は」


『?』





「──ただの傍観者や」



私を嘲笑っているかのようだった。


/ 11ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp