第11章 酔った恋人【花宮 真】
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某日。
夕飯の支度をしていると、真が仕事から帰ってきた。
「おかえ──って、え?」
目の前の信じられない光景に、目を見張る。
だって、何てたって、あの、あの真が‥‥
────酔ってる!!?
「え、ちょ、どうしたの真‥‥」
「あ? どうもしねぇよバァカ。
んなことより早く風呂沸かせ」
「どうもするでしょうが‥‥
お風呂は、沸いてるけど」
首まで真っ赤にしたその男は、
ズカズカとリビングに歩いていった。
そして、ジャケットをポイッとソファに放って、自分もそのソファに倒れ込む。
「‥‥ほんとに大丈夫?」
「うっせぇな、心配すんなよ」
「‥‥今日の夕飯、生姜焼きだけど、変える?」
「‥‥変えろ」
「何なら食べれるー?」
冷蔵庫を一応覗いてみたけど、食料はあらかたあった。
オムライス、とか言われても大丈夫なように卵は買っておいてたから助かったな。
「‥‥ササミ」
「‥‥それは‥‥予想外でした」
「チッ‥‥ねぇのかよ」
「ねぇよ。っていうか、どこでそんなに飲んできたの?」
「どこでもいいだろ」
「‥‥そっ」
なんかもう、心配して損した。
こんなに心配してるのに。
ったく‥‥もう知らない。
「‥‥おい待て」
「!?」
ぐいっと世界が流れていく。
ドスンと倒れこんだ先は、真の上。
「──うわあ! ごめん! 重いよね!」
「‥‥離れんな」
「っ!」
最近ちょっとおやつ食べ過ぎて体重増えてきてるから‥‥早く退けたいんだけどな‥‥。
動こうとしても、真の腕力の前では無力だった。
「‥‥お風呂、入ってきたら?」
「‥‥んー」
人を抱き枕にしているその姿は、幼い子供にしか見えなかった。
20代半ばで何を考えてんだろう、私は‥‥。
「‥‥真さーん」
「‥‥‥」
「‥‥寝ないでよ」
「寝ねぇよ。お前じゃあるまいし」
「失礼な!」
「‥‥‥ユキミ」
「んー?」
「‥‥風呂入るぞ」
「‥‥‥え」
離したかと思えば、そのまま脱衣所へ連行される。
「───え!!?」
軽くパニクる私の前を、ニヤッと笑った真が歩く。
こ、こいつ‥‥
──わざとだ!
酔ってる真は確信犯だった。
【END】