第10章 似た者同士は惹かれ合う? 【緑間 真太郎】
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「何のことなのだよ」
突拍子もないユキミの言葉には時々滅入る。
ったく。主語がないのだよ。
「また回想にでも耽(ふけ)ってたのか」
「はは、まーね」
あの日から5年が経つ。
今でもダラダラと情が続いているのが何故なのか俺には分からない。
「今日の夕飯は何なのだよ」
「えー‥‥たまには真ちゃん作ってよー」
「無理な注文をするな」
チラリとそいつの薬指を見た。
本来、高校卒業直後に送るべき筈だったものはそこに無い。
俺のポケットの中に隠されている。
「でもさ、真ちゃん料理上手くなったじゃん。久々に作ってよ」
「今日は作らん」
「えー! 今日くらい主婦に休みを下さいよー」
「っ‥‥主婦じゃないだろう」
【主婦】というワードに過剰に心臓が鳴ってしまった。
ったく。お騒がせな奴なのだよ。
「えー! それでも作ってってば~」
「む。何で今日はそんなにワガママ──うおっ」
「え、ちょ、真ちゃん危なっ、」
雪崩のように寄り掛かってきた不意打ちに対処できず、ふたりとも崩れ落ち──
──そうになったが、何とか支えきった。
「もー、しっかりしてよ真ちゃーん」
「ふざけるなっ!」
「ごめんなさい! ‥‥‥ん?」
何かに気がついたのか、ユキミは俺に寄り掛かったままポケットを探る。
あ‥‥‥
「‥‥‥何これ?」
「っ」
小さな箱。
その中には、今の今まで渡せずに溜めてしまっていたものがある。
「‥‥‥これ──もがっ!?」
何かを言われる前にユキミの口を塞いだ。
「よ、よく聞くのだよッ」
「!!!」
気迫に怖じ気ついたのか、すごい速さで頷いている。
「──俺と結婚してくれ」
塞いだ手の甲に、涙が零れ落ちる。
手を離すと、ユキミは声も上げずに泣き始めた。
「‥‥おい」
「‥‥緑、間‥‥っ」
「!」
指輪を出す。
「‥‥受け取るのだよ」
「ぐずっ‥‥はい‥‥っ」
差し出されたその薬指に、指輪をはめてやった。
「──似合うのだよ」
涙で濡れたその顔で、ユキミは今まで見たことの無い笑顔をした。
「はぁ‥‥真ちゃん好き‥‥」
【END】