第9章 あの子。【青峰 大輝】
「桃井ちゃんって人がいながら‥‥
──最低だよ‥‥」
涙が零れた。
たったの一粒きりで、それは止まる。
あぁ私‥‥こんな時でさえ、この人がまだ好き。
もうこのまま駆け落ちでもいいかな、
なんて最初は思ってしまった。
「‥‥なんでさつきが出てくんだよ」
「自分の彼女さえ覚えてないの?」
ズキッと胸の奥が痛む。
私だって、桃井ちゃんがあなたの彼女だって分かりたくなかった‥‥。
「かのじょ? は?」
「付き合ってるんじゃないの!?」
「はぁ!!? なんであいつと付き合わなきゃいけねぇんだよ!」
「え?」
「あいつとは幼馴染みだって話だろ」
幼馴染み?
「でも‥‥中学から一緒で‥‥しかも一緒に帰ってるって‥‥」
「高校はあいつが勝手に着いてきた。
家だって近ぇんだよ」
な‥‥
何よそれ‥‥。
誰!? ふたりが付き合ってるなんて言ったの!
「‥‥‥」
「もしかして、気にしてたのそれか?」
‥‥居たたまれない‥‥。
はは、穴があったら入りたい。
「‥‥じゃ‥‥私、これで‥‥」
「は? ふざけんなよお前」
「いやあ!! もう分かったから! 早とちりだって分かったから!!」
「‥‥逃げんなよ‥‥」
「し、舌打ちしなくてもいいじゃん!」
そんなに嫌だったの!?
「怒ったなら謝るから! だからもうこの事は──んっ!?」
な、なにこれ‥‥何、この感触‥‥!?
いつのまにか口の中に異物感を感じた。
『それ』は逃げても逃げても追い回してきて、時折絡めて、強く吸われる。
「んぐっ‥‥んん‥‥」
意味がわからない‥‥頭がショートしそう‥‥。
「っは‥‥鼻で息しろお前‥‥死ぬぞ」
「なっ──んっ‥‥!」
逃げたい。
『それ』の正体が彼の舌だと気づいてから、逃げるのに必死だった。
こんなんじゃない。
恋人とのキスって言うのは、もっとこう、ロマンチックなもので‥‥‥
そんなこと理性で考えながらも、本能はまだ続けて欲しいと願っていた。
頭がボーッとして来て、押し返そうとしていた手までも、力が抜ける。
「はぁ‥‥はっ‥‥──!?!?」
スカートにインしていたワイシャツが抜かれた。
その間から手が差し入れられて、服の中をまさぐる。
──はっ!?!?