第6章 幸せな家族 【虹村 修造】
「・・・どうしたんだよ」
その声が心臓を痛くする。
いつもは安心なその声も、今じゃただの毒みたいだ。
「・・・言えない。
・・・にじむーと別れなくちゃいけないことなんて」
届いているのかすら危うい声。
絶賛カエル状態だ。
「・・・別れる・・・?」
「・・・っ」
聞こえてきたのは、困惑だった。
自分の気持ちがバレたから戸惑っているのか。
そうだったとしたら・・・なんて考えたら、心臓が潰れてしまいそうだった。
「・・・どういうことだよ」
「!」
だけど、少し違った。
その先に待ち構えていたのは、怒り。
こっちが戸惑う番になって、修造の方を振り向く。
そこには、大切なおもちゃを取られた子供のような顔をした大切な人が。
「え・・・」
「なんだよそれ・・・どういうことだよ」
「え」
どういうこと、って・・・知りたいのはこっちだ。
もしかしたら自分の言い方が悪かったのかもしれないと思い直す。
「わ、私はにじむーとずっと一緒にいたいよ! ・・・でも」
「?」
「・・・あなたは、そうじゃないのかもしれない、から」
「・・・は?」
「言いたいことあるなら、言ってよ。
にじむーの意見なら、受け入れる」
どんなことだって。
たとえ離婚だろうが何だろうが、受け入れてやろうと決めた。
それが、私にとっての愛情表現だ、と。
「・・・何言ってんだか知らねぇけど」
「! うわっ──」
「お前が嫌っつっても、俺は離れたりしねぇからな」
「!」
ものすごい力。
後頭部に添えられた手が、クシャッと髪を撫でた。
冷えきった涙痕が、おニューの涙で温かくなる。
「・・・しゅ、う・・・」
「・・・バカだな、お前・・・」
止めどなく流れる涙が修造の肩を濡らしていく。
それを感じながら、この小さな背中に何かを背負わせていたのかと、修造は眉を歪ませた。
こんなにも小さいのに。
こんなにも、弱いのに。
いつも、力強く支えてくれた。
「・・・はち」
「っ・・・何・・・ッ」
「・・・家族、つくるか」
「え──うわっ!!?」
言葉なんかでは伝えきれない。
──生憎、天の邪鬼なんだよ、俺。
驚く彼女の背中を掻き寄せて、ゆっくりベッドに沈んでいった。
【END】