第6章 幸せな家族 【虹村 修造】
──LA──
LAの朝は早い。
否、どこの朝だって早いが、この家の朝は早い。
「ゴラァ!! 起きろいい加減ッ!!」
「・・・んー・・・」
布団をものすごい速さで引っ剥がす男・虹村修造。
そして朝日を浴びて寝惚け眼を擦る女・三井はち。
いや、今はもう旧姓になったが。
「テメェ土曜だからっていつまでも寝てんなよ!!」
「うっ・・・うるさい・・・先輩・・・」
耳を塞ぎながら眉を潜め、むくりと起き上がる姿は、月曜の朝に学校に行くのを嫌がる子供のようだった。
「土曜だからって俺仕事だからな。夕飯、和食で」
「え、もう行くの・・・・・・って、8時!?」
カッと見開いた目で飛び上がり、バタバタと部屋を出ていくはち。
やれやれと溜め息をついた修造は、ネクタイを締めて部屋の扉を閉めた。
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「行ってらっしゃーい。浮気しないで行ってらっしゃーい」
「一言余計だわ。・・・んじゃあな」
靴べらを肩にポンポンと当てながら、はちは意地悪そうに微笑む。
呆れたようにその頬をつねった彼は、扉に手をかけ──
「──ちょっと待って!」
「・・・?」
「ちょ、ちょっと待って! 何か忘れてますよね!」
「?」
弁当は、持った。水筒も、持った。
財布も忘れてない。
何も忘れてはいない。
「・・・全部持ったな」
「・・・そうじゃ、ないでしょ!」
「!?」
真っ赤な顔で眉間にシワが寄っている。
その顔は・・・憤怒、いや、羞恥?
そこまで考えて修造は思い知った。
「・・・いや、アレやめようって言ったのお前だろ」
「きょ、今日はそういう気分なの!」
「はぁ?」
溜め息をつく。今日既に2回目だ。
開きかけていた扉を閉める。
はちの後頭部に手を回して──キスをした。
「行ってらっしゃーい!!!!」
(・・・調子いい奴・・・)
本日3度目の溜め息が零れる。
『ね、もうアレやめよ』
『アレ? あー、朝の?』
『うん・・・なんか、恥ずかしいし』
『別にいいけど』
(・・・あの言葉、嘘だったのかよ)