第4章 とあるお話の裏では 【火神 大我】
首を横に振る。
声が出ない。涙が溢れてる。
頭に手が添えられて、ぐっと引き寄せられた。
私も火神の肩におデコを押し付ける。
悲しい訳じゃない。
悔しい訳じゃない。
でも、涙が流れるときは、いつも胸がいっぱいになる。
「・・・火神」
「おう」
「・・・火神・・・っ」
「おう」
「私・・・火神、に、なるんだ・・・っ」
「・・・おう」
『おう』しか言ってないじゃん。
なんか言ってよ。
「火神。火神・・・かぁ・・・」
「なんだよ、なんか文句あるのかよ」
「無さすぎて困ってんの」
火神が鼻で笑ったのが雰囲気でわかった。
自然と笑顔になってくる。
火神といるときは、いつもこうだね。
本当に、暑苦しいくらい太陽みたいな人だ。
「・・・あ、時間」
「うわやべっ、過ぎてる!」
「ちょ、いきなり立ち上がんないで!」
ソファに転がり落ちる。
ったく・・・仮にも乙女に向かって何をするんだ!
「んじゃ! 行ってくる!!」
「自転車で転ばないでねー」
慌ただしく部屋を出ていった──かと思いきや戻ってきた。
「な、なに?」
「・・・晩飯、ハンバーグな」
・・・は?
「んじゃ!」
「っえ、ちょ、え!?」
え・・・夕飯、ここで食べるってこと?
玄関のドアが閉まる音がして、嵐が過ぎ去ったあとのように静かになった。
思わず立ち上がっていた体をソファに沈み込ませて、伸びをする。
「・・・ハンバーグ、か」
火神のほうが、上手なんだけどな。
そんなこと考えて、ちょっと笑って、冷めきっていたピザに手を伸ばした。
【END】