第1章 ◆Fly high◆(執事サイド)
それは八年前「経験してみたい」という無茶苦茶なお願いをされる、はるか以前にさかのぼる。
初めて出会った時、あなたはまだ中学生だった。今よりずっとやんちゃ…もとい天真爛漫で、加減を知らない暴れ姫。養成所を経て執事デビューしたばかりの私は…17か。素人同然のひよっこ執事には少々手強すぎる相手で、激っっっしく充実した毎日だった。
当初よりあなたは私を気に入ってくださっていて、私の方が年上だというのに「カワイイカワイイ」と馬鹿にしくさりやがっ…コホン。ま、確かに当時はさほど体格がいい方ではなかったがっ?
今思えば、あの頃はままごとのような、それこそお姫様と執事ゴッコのようなものだった。もちろん、こっちは余裕なんてなく、ただただ真剣に取り組んでいたのだが。
そんな青二才の執事が、ある時ちょっとしたミスで高熱を出してしまい、主である美月お嬢様に介抱して頂くというおそれ多い出来事があった。しかもそれはゴッコなんてものではなく、それこそ寝ずの番で、毎日毎日、完治するまで献身的に看病してくださったのだ。
というか、まあ。ぶっちゃけお嬢様の看病中に、インフルエンザがうつってしまったってだけなのだが。
それでも
『私はうつらないから大丈夫。…ごめんなさい、あなたにまでつらい思いをさせて…』
歳の割りに人を気遣えるその優しさにグラッときたのは事実。ま、普段とのギャップも含め。