第5章 「恋」
『君の名前はキーボ……人類の希望となりますようにって思いが込められてるんだって』
誰よりも幸運に恵まれる人につけてもらった名前なんだよ、と、逢坂博士は言った。
生みの親である彼女は目覚めたボクを見つめて、嬉しそうに笑った後、一つだけ君にお願いがある、と頼みこんできた。
それは、あまりにも突拍子もなく
想像すらできない頼み事
本当にいいんですか、と慌てて聞くと
すると、博士はもっと嬉しそうに、キミにしか頼めないことなんだよ、と答えた。
「博士ー、逢坂博士、ここにいたんですね」
研究棟の1階、共同フロア。そこでは学会を控えた研究系の生徒たちが数人、原稿を持って何やら集まっていた。
「…ん、逢坂、キーボが呼んでんぞ」
制服を正装で着こなした左右田は、普段許されている作業着姿よりも聡明そうに見えた。「いつもより賢そうですね」、とキーボは褒めたつもりなのだが、左右田は「るっせ!」と返答した。褒め言葉としては受け取ってもらえなかったらしい。
『……』
「博士?」
彼の隣に立つ逢坂がじっとキーボを見つめ、おもむろに左右田のネクタイをほどき始めた。
「あっ、ようやく結べたのに!」
『すぐ結び直しますんで』
逢坂はそれをキーボの首元に結んで、自身の顎に手を置いたまま、鑑賞した。似合いますか!と少し嬉しそうに聞いてくる彼に、「質感が違いすぎて違和感」とは言えず、答えを濁しながら左右田にネクタイを返す。
「…あーもー!ステージの上で10分も大量のきめぇおっさん共に視姦され続けるなんて耐えきれねぇよぉ!」
「入間、もうちょっと普通に緊張するって言えよ…」
「視姦…って何ですか?」
『不二咲は知らなくていい言葉だよ。でも個人的に視姦するなら不二咲が一番楽しいと思う。入間みたいな変態じゃなくて』
「誰が変態だ!」
『お前だよ!』
「ひぐぅ!ち、ちげぇよ、オレ様は真夜中に下着姿でうろついたりなんかしねぇし…」
「なんか妙に具体的だな。っつーかよ、あと10分で移動だっつーのに変なこと言うんじゃねーよ!オレ的にも入間なんかより不二咲の方が需要あると思うけどな!」
『賛同してもらえますか』