第3章 不在の代償
キーボの調整と、来年度からの学園へのキーボの入学申請が終わり、逢坂は学校生活に戻ってきた。
書置きを見て連絡は入れていたものの、天海と顔を合わせるのは2週間ぶりだ。
『久しぶり、天海』
携帯に届いていた赤松のメッセージによると、天海はどうやら、一番逢坂の安否を心配していたらしい。
先に教室にいた天海に声をかけて、なにも教えていなかったことを謝ろうと思ったのだが。
『あのさ』
「おはようございます」
天海は視線を合わせることなく、机の上に広げたノートに書き込みを続けている。
その「話しかけるな」と言わんばかりの圧倒的威圧感に、もともと人に話しかけるのが苦手な逢坂は閉口した。
『……あの……えっと………心配かけてごめんなさい』
「いえ、全然大丈夫っすよ。どこにいようがなにしてようが逢坂さんの勝手なんで」
勇気を振り絞り、とりあえず謝罪までは進めたが、天海は未だに視線を合わせようとはしない。
(……こわい、お腹痛い気持ち悪い)
豆腐と同等の硬度しか保てないメンタルが災いし、逢坂の体調が急速に悪化していく。
ホームルームまであと10分。
心は救世主を求めてやまないが、残念ながらこのクラスには、天海にも逢坂にも理由なく話しかけてくるほど友好度の高い相手はいなかった。
「あ、ちょっといいかな。逢坂さんを呼んでもらえない?」
一瞬、知っている声が聞こえた気がした。
ハッとして教室の扉の方を見ると、そこには苗木に話しかける最原の姿があった。
目が合ったのをこれ幸いと、逢坂は足早に最原のもとへ急いだ。
「あ、逢坂さんおはよう。今日も朝来なかったから、ちょっと様子を見にきたんだけど…もう学校には来れそうなの?」
『……最原…待ってた』
「え?何か約束してたっけ」
『してない。今日ほど最原を愛おしく思ったことはないよ』
「えっ…あ、ありがとう」
紛らわしい言い方をする逢坂の言葉に、最原がちょっと俯きがちに頬を染めた。