第18章 得意不得意
もしも。
回し車に入るや否や、全速力で意味もなく駆け回り続けることの出来るタフネス溢れるハムスター勢と、スタミナ勝負をしろと言われたら。
逢坂は不戦敗を受け入れても差し支えないほどの運動能力しか所持していない。
生きる為に体力がいることは承知しているが、日頃から全力で出来る限り省エネを心がけていれば、その程度の欠陥は補える。
友情、努力、勝利。
有名な少年雑誌がそんな三大要素を掲げ、競争社会の先頭を走り続けていることは素晴らしいことだと思う。
けれどその三つのうち、逢坂にとって生きていく為に必要なものは「友情」だけであると、認識している。
それで十分というより、まるで他の二つに価値を感じない。
努力よりありのままの自分を受け入れて、戦争より平和を享受しよう。
そんな熱弁をもっともぶってクラスメートたちにふるっても、友情も努力も勝利も大好物の彼ら体育会系の生徒たちが、聞き入れることはなく。
「じゃあ、今日から朝練を始める!まずは走り込みだ!」
その日。
求めていないリーダーシップを発揮する百田に先頭を走ってもらいながら、2-a白組のメンバーはグラウンドを駆けずり回されていた。
「よっしゃあなんかこういうの青春っぽくてアガるなぁ!?白組ー、勝つぞー!」
「えいっえいっおー!さあ皆さんご一緒に!」
「「「………おー………」」」
「にゃははー、みんな死んだ生贄みたいな顔してるねー。どうしてー?どうしてー?」
「えっ…夜長さん、死んだ生贄見たことあるの?」
「終一、生贄は死ぬから生贄なんだよー?見たことあるも何も、そんなのジョウシキだよ!」
「…夜長さんの常識って…?」
「百田君!」
「おっ、どうしたゴン太!?」
「白銀さんと、逢坂さんが…」
ゴン太の密告により。
走り続ける2-aの白組集団から外れて、しゃがみこんで顔をつき合わせている逢坂と白銀の存在が明るみに出た。
「こらオメーら!まだ3周も走ってねぇだろ!」
「大体さ、不平等だよね?どうして体育祭なんて体育会系の生徒たちが活躍できる場が当然のごとく毎年強制開催されてるのに、私たち文化系の生徒たちには文化祭程度の催ししか用意されてないのかな」