第16章 見かけによらない
あの時と同じ。
腕の中に逢坂さんの体温を感じながら、また深く息を吸い込んだ。
『離して』
けど、やっぱりあの時とは違う。
まだキミが、彼だけを瞳に映す前は、抱きしめたって、名前を呼んだって、こんな冷たい言葉は返ってこなかった。
「………嫌だ」
『離れて。王馬に見られたくない』
キミにとって、この想いはもう邪魔なものでしかないのかな。
キミを大切に想うこの気持ちは、もうキミの中では必要のないものになっているのかな。
「……ごめん」
あぁ、情けない。
かっこ悪い。
物分かりのいい友達面を続けておけば、まだキミに必要とされたかも。
『……大丈夫、心配してくれてありがとう』
「違うよ」
『……?』
「謝ったのは、これからのことだから」
『……どういうこと?』
腕の力を緩めて、彼女の瞳を見つめた。
逢坂さんの透き通ったガラス玉のような瞳を、吐息のかかる距離で見つめて、もう一度。
ごめん、と彼女に謝って。
僕は
謝罪の言葉を紡いだその唇で
彼女にキスをした
『ーーーー最原……?』
唇が触れ合う直前、彼女が僕の名前を呼んだ
だから、願わずにはいられなかった
(……………あぁ、もう)
今、この瞬間
空から隕石が降ってきて、この世界をめちゃくちゃに壊してくれればいいのにって
「………逢坂さん」
そしたら、キミと一緒に死ねるのに
キミを僕の腕に抱いたまま
キミの瞳に、僕だけを映したまま
誰にも奪われることがない
そんな理不尽な死を、僕は
僕は