第13章 鈍く冷たく赤い
傷ついたフリをしていた王馬はけろっとして、悪びれるそぶりを見せない。
廊下側、王馬の列の最前席に座っていた夢野が席を立ち、自己紹介をした。
「んぁ…自己紹介か…めんどいのぅ。夢野秘密子、超高校級の魔法使いじゃ。よろしくな。好きな人はイケメン、嫌いな人は面倒なことを押し付けてくるやつじゃ」
夢野は天海をじっと熱い視線で見つめたまま語り終え、席に座ると、わざわざ振り向いて、次は自分の順番だと理解していなさそうなゴン太に視線を送った。
「…あ、ゴン太の番?…はじめまして、獄原ゴン太です!好きな人は、たくさんいます。好きな虫さんもたくさん!ゴン太も前はa組だったよ。また、仲良くしてください!」
茶柱のせいでなぜか好きな人について語る流れが出来ているのに、獄原は気づかずに、まるで女子への気が多いと勘違いされかねない自己紹介をした。
浮気性なの?と不思議そうにゴン太に問いかけたのは、逢坂の右斜め前、王馬の前に座る長髪ロングのメガネ女子だ。
「浮気性?ち、ちがうよ!ゴン太が好きなのは、優しい最原くんとか…王馬くんとか、友達になってくれた人のことだよ!」
「あぁ、そういうことなんだ…ごめん、地味に気になっちゃった。…えっと、白銀つむぎです。超高校級のコスプレイヤーで、意外性も何もなく、漫画やフィクションが好きです」
白銀、と名乗った彼女は穏やかに微笑み、静かに音を立てないようにまた座席に腰掛けた。
いつも通りの不敵な笑みを浮かべ、王馬が自己紹介を始めた。
「オレは、王馬小吉だよ。超高校級の総統なんだー。みんな、よろしくね!」
逢坂は淡白な彼の自己紹介を聞き終え、少しムッとした。
必要事項を伝える担任の声を聞き流しながら、逢坂は肘をついて、そこに顎を乗せたまま、正面を向き直った。
(…自分は好きな人、言わないんじゃん)
「それと、逢坂さん」
『………………』
「…あれ?逢坂さん?聞こえてないのかな?」
「…博士?」
『……なに?』
「先生が呼んでいますよ」
『…え、あっ、はい!なんでしょう』
「昼休みに学園長室に来てもらえますか?確認したいことがあるので」
担任の言葉を聞き、少し悩みはしたものの、断れるわけもなく。
逢坂は、わかりました、と一言答えた。