第13章 鈍く冷たく赤い
間宮光との出会いを思い出し、王馬とまた一緒に時間を過ごすようになってから、早1ヶ月。
肌寒い時期はとうに過ぎ、桜が咲き乱れる春が訪れた。
逢坂たちにとっては、希望ヶ峰学園で迎える二度目の春だ。
「今年こそは、雪と一緒のクラスになれますように…!」
春休みが明け、新学期が始まる。
長期休みの間に念願の雪との初デートを果たした赤松は、心なしか元気いっぱいに見える。
通学路の遠い景色と同化していた学校が近づき、その厳かな校舎が一つ信号を渡った先に現れると、急に赤松が胸の前で合掌し、願掛けをし始めた。
「あ、そっか。クラス替えがあるんだったね」
春休み前には、誰に何を聞かれても、どこか覇気のない返答しか出来なかった最原。
彼もまた春を迎えて心機一転しようと決めたのか、彼らしい穏やかな雰囲気を取り戻していた。
「あれ、赤松ちゃん。もう最原ちゃんと雪ちゃんの間に溝を掘る作戦はやめたの?」
長期休みも登校日も関係なく、自由気ままに、逢坂の側にいたりいなくなったりを繰り返していた王馬。
今朝方、なんの約束もしていなかったのに逢坂の家まで迎えに来た彼も自然と、登校グループに参加していた。
「溝を掘ったりなんかしてないよ!ただ、ちょっと……二人の間に不可抗力的にできた溝を、私は最原くんを差し置いて跳び越えようとしただけで」
「赤松さんって、結構したたかだよね…」
何とも複雑な表情を浮かべる最原は、だって最原くん見てて心配になるくらいの奥手だからさ、と言い訳とも悪口とも取れる発言をする赤松に苦笑いした。
「ははっ、それは言い訳じゃなくてもはや悪口っすね。…クラス替えによっては、こんな大所帯の学校なんで、誰がぼっちになってもおかしくはないっすよね」
できればまた逢坂さんと同じクラスがいいんすけどね、と、ごく自然に逢坂を口説く天海。
そんな彼の甘い言葉の一番重要ではない部分だけを切り取り、逢坂が繰り返した。