第6章 本当の嘘つき
階段に足をかけた時、なんだか自分の視界が歪んだ。その理由に気づいて、もっと自分が情けなくなってしまう。震える息を整えて、階段を上がりきったところで、逢坂さんに呼び止められた。
『私…最原じゃだめなんて思ったことないから』
「………。」
『私も、楓を羨ましいと思ったことあるよ。高校に入ってからずっと、最原の隣にいたいって思ってた。自分じゃなくて悔しいって思ったこともある』
逢坂さんは堰を切ったように話し出す。自分の背に向けてかけられるその言葉に、僕はどうしても涙をこらえることができなかった。
『中学の時、最原も私の話信じてないの知ってた…だから世界に認めさせて、有名になって、最原に信じてほしかった。ロボットに夢中だったわけじゃないよ、嘘をついてるって思われたままじゃ側にいられないって思ったから…!』
俯いたまま階段を駆け下りて、彼女を抱きしめた。
「……僕たち、もっとたくさん話せばよかったのかな。そしたら、今でも僕の隣にいたいって逢坂さんは思ってくれてたのかな」
痛いほどわかってる。あれだけ言葉を尽くしても、同じ時間を過ごしても、僕たちはすれ違ってしまっていた。そのことに気づけなかった。お互いが自分のことばかり気にして、相手のサインに目もやらなかった。
それでも
「ーーー好きなんだ、逢坂さんのこと。ずっと前から…キミのことが好きだった」
嫌われたくなくて、離れたくなくて、傷つけたくなくて。
臆病になりすぎて、近づけなかった。
でも彼女はきっと、彼みたいに、嵐のようにやってきて、あからさまな好意を向けてくる相手をずっと欲していたんだろう。
また赤面して石化した彼女から離れて、じゃあまた、と声をかけた。ポロポロと溢れる涙を拭って、教室に戻る気になれず、中庭に出た。
深く吐いた僕の息は、白いもやになって可視化する。きっともう授業は始まっているだろうけど、なんだか清々しい気持ちだ。
(…心臓が、重くない)
ずっと、隠してきたことをたくさん話した。そのせいか、いつも重たく感じていた胸がすっとして、外の寒さも相まってか、背筋が伸びた。上を見上げると、空は青く澄んでいるのに、雪が降っている。
(………よし)