第41章 迷い子
side.S
ぐちゃ、と音がする。
オレに跨ってよがる潤が、キレイに哂った。
熱のこもった息遣いと射るような視線に心臓が跳ねる。
抱いてるのはオレだが、捕食者たりうるのは潤なんだろう。
快感とは違う何かに侵食されていく。そういう、感覚。
「ァ、ぁ……イイでしょ、ねぇ。オレで、満足して?」
腹の辺りを支えにしていた腕が、首に伸ばされる。
そうして撫でる潤の指に、予想してた通りに力が入った。
窒息死しそうな程ではない。けども息苦しさはある。
いつも通りだ。そのうちオレが気絶するんだろ。
「捨てないで、んっ……捨てるなよ、翔さん………っ!」
オレの首を緩く絞めながら、潤が動き始めた。
気持ち好い。だからこそ、苦しくなるのかもしれない。
背徳的な快楽にか、窒息感にか。
どちらにせよ、オレは胸の苦しさを覚えるばかりだ。
好きなのはこんな交わりじゃないのに。
別に気負うことは何も無いのに。対等なのに。
コイツは、いつも何かに追われているようだった。
付き合ってから、今の今までずっと。
お前が心配することなんか、何も無い。
発しようとした声は、耳障りな呼吸音になっただけだった。
そして、オレの行動が不安を誘発したのだろうか。
気管にかかる負荷が上がった。視界が、ブレる。
「気持ち好くなってれば、いいの……あッ、翔くんは」
それじゃあ、お前は?
反論の言葉は、力で押し潰される。
ヒュ、と喉が鳴って。散らばった思考が溢れ出す。
こちらの気も知らないで、縋りついてくるなって。
蔑ろにしたことなんて無いし、本当に大切なんだよ。
オレらが相容れないとするなら、こういうところかな。
だったら、オレにだって考えがある。
そこまで考え、トぶな、とだけ判然と分かった。
そんな暗む最中、潤が泣いてるように見える。
思わず手を伸ばそうとして。そこで、意識が途切れた。