第30章 さてそのほかは、みな狂気の沙汰
side.?
組み伏せた背中に、汗が伝うのが目に入った。
その瞬間、ふつりと何かが切れたような気がしたんだ。
背筋に舌を這わせ、時偶キスをする。
ほんのり赤い花が咲いて、思わず笑みを浮かべた。
肩甲骨の辺りを軽く噛んで、それからその痕を優しく舐める。
すると殺しきれなかったらしい、甘い嬌声があがった。
クラリ、とした。
「あぁっ!は、ぁ…それ、やだ……も、ねぇ」
「そう。でも、絶対に逃がさないから、ごめんね?」
興奮が抑えきれなくなったからか、口は勝手にそんな言葉を紡ぐ。
反射のように逃げを打つ体を押さえ、後ろから指を絡めて手を握った。
それにすら震えて反応するものだから、ホント好きだなぁと思っちゃう。
いつもなら、やだ、と聞こえたらやめてたんだけど。
今日はセーブ出来ないみたいだ。どうにも止まれない。
最低限の加減はしてるけど、それ以外は好きにしてしまう。
もしかすると、それを望んでいたのかもしれない。
腰を強く掴み、自分の方へと引き寄せる。
ぐちゃりと音が聞こえて、そんなことにも興奮しちゃう。
だって、こんなにも、きもちいい。
「こんなグチャグチャで、逃げられる訳無いじゃん」
「あ、ぁ……ね、もっと、ねぇ………ア、ちょーだい」
「言われなくても、あげる」
「よかったぁ………んぅ!や、ぁ」
イイところにでも当たったのか、さっきよりも蕩けた声が返ってくる。
耳も真っ赤だし、きっとそういう顔をしてるんだろう。
ここからは見えない表情を想像して、堪らない気持ちになった。
それに、このタイミングで強請るように言うなんて。
聞こえてたのかな、どうかな?
実際そんなのはどうでもよくて、否定されなかったことが全てだ。
今はただ、ひたすらに気持ち好くなってほしい。
叶うことなら、もっと欲しがってほしい。それだけだ。
「大好き。愛してるよ」
どうか、同じところまで。同じように、堕ちてきて。
普段から願っている身勝手なことは、どうしてだか言えなかった。
代わりに、愛しさを込めてキスをする。
ほんの少しの赤が、項に咲いた。とても、綺麗な色が。