第24章 額の上なら友情
丁度帰り支度をしていたようで、さっぱりした感じで迎え入れてくれた。
「大野さん、何か、ごめんね」
「いいんじゃない?良いって言ったし」
スタジオには、もう大野さんしかいない。
それを知っていたから、こうしてやって来た訳だけど。
何でもないように笑う彼は、オレをどこまで甘やかすんだろう。
下心がある側からすると、嬉しくもあるけど、何だか妙な気分。
いや、嬉しいんだ。ただ、勘違いしたくなっちゃうからね。
絡まりきった心情を隠したくて、意識して口角を上げる。
そして、オレも何でもない風を装うことにした。
「なぁ、アレやって」
「ん」
平坦な言葉に、短めの返事。
自分が仕向けた筈なのに、ちょっと寂しくなってしまう。
けど、それも額に触れた温度にもっていかれる。どうでもよくなる。
額へのキス、それはオレがお願いしたことだった。
不思議がるリーダーに、おまじないだと言えば納得してもらえた。
他にはしないで、とも言ったんだ。多分、変なヤツって思われただけ、だけど。
「いつかは、唇にもしてね」
冗談めかして、カラリと笑ってみた。気付かないでって思った。
でも、オレはどうにも押しつけがましいようで。気付けよ、とも思ってしまう。
こんなに好きなんだから、少しくらい。
そんな我が儘を口走りそうだった。
堪らなくなって下唇を噛めば、大野さんに上着の裾を引かれた。
「いいよ。お前だけ、だろ?」
返ってきた言葉の甘さに、くらりとした。
柔らかな笑みも、服に触れているその仕種も、オレには甘く見えてしまう。
自分だけなんじゃないかって、舞い上がりそうになる。
十中八九、オレの顔は真っ赤になっている。恐らく、耳まで。
あぁ、駄目だな。とっくに、舞い上がってるんだ。
余裕なんか、どこにも無い。
「かわいいな、お前は」
微笑ましいと言わんばかりの表情が、何だか恨めしかった。
大野さんは、気付いてないだろうから。それでも好きなんて、困っちゃうよね。
これでも、積極的にアプローチしてるのになぁ。