第90章 頬を抓れば、すぐに分かる 肆
「あなただから、オレは付き合いたいの」
気恥ずかしさからだろうか、若干、上擦った声。
自分でも、らしくないと思う。
その珍しさもあってか、智さんがきょとんとする。
パチパチと瞬きして数秒経ち、おぉ、なんて思い出したように言った。
緩い反応が彼らしいけれど、物足りない。
オレなりの精一杯なんだから、もっと喜んでほしい。
だなんて、どうしようもなく欲深だ。
好きだと分かったら、そうなってしまった。
オレ以上に好きでいてくれてるって分かるのに。
上手く言えないけど、自惚れさせたいのかもしれない。
「キスとか色々さ、今日からは恋人の立場でさせて?」
恥ずかしいやら恐ろしいやら、横を見れやしない。
それでも、ゆっくりと智さんの手を握ってみる。
一瞬ぴくりと動いて、けどしっかりと握り返してくれた。
その反応に安堵し、口角が上がるのが自分でも分かる。
「………いやぁ、俺、すげぇのを捕まえたな」
「ぇ、あ、うん」
「お前のこと好きになって良かった。ありがと、大好き」
細い指がオレの頬に添えられ、視線を逸らせないようにされた。
だって、いくら照れくさくても、これじゃ誤魔化せない。
それに折角このひとから触れてきてるんだもん。勿体ない。
薄い唇から紡がれる言葉は、何物にも代えがたい喜びを齎した。
体が何だか火照ったような感じがするし。
心臓は早鐘を打ってて騒がしい。
「オレも、その、智さんのこと好きで幸せだし。アンタも幸せにするから」
「おぉ……やっぱ男前。よし、風呂入ったら寝よう」
「え!?偶にしてた、あの……添い寝っすか」
「え?付き合ってんだし。ヤるのはまた次にな」
屈託なく笑う様は、文句無しに可愛い。
外見はまだサトコちゃんだし、そりゃもう最高だ。
だけど、そういうとこ好きだけど。
でも、その潔さが眩しくて仕方ない。
これまで、智さんと同じベッドでよく眠れたもんだなぁ。
翌日の寝不足を覚悟して、隣の愛しい彼をそっと抱き締めた。
ひょっとすると、これは。
オレの方こそ、すげぇのを捕まえたのかもしれない。