第90章 頬を抓れば、すぐに分かる 肆
side.M
オレの部屋に連れてくるのは、かなり久々だ。
ここ最近は智さんとのことを考えていて、家に呼んだり遊んだりしてなかった。
一緒には帰ってたけど、それだけで呑みにも行っていなかったし。
二週間くらい空いたのは初めてで、自分の家なのに緊張する。
コーヒーを淹れ、ソファに隣り合って座る。
湯気の立つそれをチラリと見て、重い口をどうにか開く。
「……あの、さ。付き合うってことで良い、よね?」
強引に事を進めてきた自覚がある分、念を押す形になってしまった。
実は頑固なとこもある智さん。
その彼がついてきたということは、一応イエスの筈だけど。
どうにも、臆病になるようだ。
今この瞬間だって、早く肯定がほしいんだ。
だけど、そんな風には出来ない。
そうやって勝手にするのは、もう終わり。
急かさないように、じっと待って。
こくり、と頷くのが見えて、内心で胸を撫で下ろす。
こういうとき、経験の少なさを祟りたくなる。
あまり交際が長続きしないことを、あなたは知らないんだろうな。
思えば大学時代から、オレはこのひとを優先してきていた。
そのことだって、きっと、知らないんだろうなぁ。
一度、気付いてしまえば。一旦、認めてしまえば。
ただの先輩として慕ってたつもりだけど、多分それだけじゃなかった。
そうなんだって、気付いた。そう、気付かされた。
「潤は、良いの?俺は嬉しいけど、でも、男だぞ」
「良いっつーか関係ないよ」
智さんは、ふと思い出したような顔で言った。
そんな、どこか浮かない響きを、咄嗟に否定した。
分かってる。自分のツケなんだって。
振り回して、好き放題して。
今夜の呼出しも、オレが一人でやったんだし。
分かっている。だから、ちゃんとケジメをつけなきゃ。