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小話【気象系BL短編集】

第79章 望蜀








「もっと、いっぱいになって。何も分からなくなって」


荒い呼吸の音、お互いに奪い合う唇。
隙間から聞こえる、聞きたくないような、でも己を昂らせる声。


あなたが言うまでもなく、いつだって一杯いっぱいだ。
そうやって応えられていることに、安堵を覚えてやまない。
体の力が自然に抜けて、だらりと落ちかけた腕を首に回す恰好にさせられる。


「はぁっ…翔くん、掴まっとけよ」


分かってる、と返した素気無い言葉は掠れきっていた。
予想していたであろう智くんが、わざとらしく口角を下げる。
そうして再開されるキス。
今度は、本当に、容赦しないんだろう。


快感に熱くなる体と、乖離する冷静な思考。
相反するものに掻き乱され、その元凶があなたであることに興奮する。

理解してはもらえないだろうから、言うつもりも無いけど。
支配したいと欲するのと同じくらい、支配されたいとも願ってしまう。
だって、そのとき見られるものはオレだけのものだ。

従うべきと言わんばかりの態度、それにこそ傅きたい。
マゾヒストということではなくて、愛しくて尊んでいる彼だからそうしたい。



かり、と傷にならない程度に首筋を引っ掻く。
うっすら目を開けると、咎める色が冷たく刺さった。


「ふふ……怖いなぁ、にいさん」

「今から食われんのは翔くんだけど?なに、余裕なの?」

「全部持ってってよ。あなたのものだよ、みんな」

「じゃなきゃ、ゆるさない」


あくまで穏やかなトーンの台詞に、腹の奥の方がぎゅうっとなる。
ときに強引にもなるあなたが、牙を剥く瞬間を心待ちにしているのだ。
こんなコトをしているとき、穏やかでない方がこっちも滾るってものじゃない。
オレしか知らない”顔”で愛してほしい。そう希う。


まだ足りない、とそう思いながら軽く彼の舌先を噛む。
途端に粘膜の接触が激しさを増し、すみずみまで弄られる。

ほら、こうして躾られていても気にならない。
朧げな意識の中、笑った。




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