第1章 手見禁
side.M
一見、そうとは分からないペアリングを贈った。
それでも安心は出来なくて、みんなでいるときには外していた。
ちゃんとオンオフの切り替えをしてた。それすら、懐かしい。
近頃のあなたは全くつけなくなってしまって、気持ちが離れたのかなって思った。
オレの夢は、さめてしまったのかって。
でも、あなたが頻りに指を気にする素振りを見せるから。
右手がいじくる、左の薬指。
そこに、一縷の望みを託すことにしたんだ。我ながら、諦めが悪い。
けど、あなたが関わると、形振り構ってられないんだ。
「ね、手、貸してよ」
「……何で」
「繋ぎたいんだけど、ダメ?みんなが来るまでだからさ」
渋々といった体で、大野さんが手を差し出す。
しっとりとした質感は変わらず、だが以前より硬いように思った。
手の甲にキスを落とし、緩く握ってみて原因が分かった。
このひと、痩せたんだ。繁忙期でもないのに、と首を捻る。
「何かあったの。気付かなかったけど、痩せちゃってる」
「別に、何もねぇよ。お前が気付かないくらいなんだから、どうってこと無い」
突き放すような声音に、ついカッとなって。
きつく問い質しそうになって、焦りすぎだな、と嘆息した。
その途端、握った手が強張った。
怒ったと勘違いさせてしまったのかもしれない。
しくじったなぁ。
口で否定するのは簡単でも、きちんと納得してもらうのは難しい。
こんなに分かりやすく、大野さんが本調子じゃない様子なら尚更だ。
落ち着いて、冷静に話さなきゃ。
今、間違うと。修復出来ないような気がする。
「えっとさ、気付きたかったなって思ってるんだ。アンタのことだから」
「そう……お前、心配性だもんな」
「じゃなくて、いや………だから、その……怒ってるとかじゃ、ない」
「分かってんだよ、そんなこと。でもな、あんまり恋人を放っておくなよ?」
一瞬、思考停止。
そうして意味を理解して、驚きの声は呼吸ごと奪われる。
気持ちが好くて夢中になって。そういえばキスって久しぶりだなと思った。
いや、そもそも。
キスじゃなくても、二人きりのときに触れていたっけ?
そうだ、そうだった。最近、恋人らしい触合いなんて一切してない。
オレが忙しいってパタパタして、大野さんのことを慮る余裕さえ無かったんだ。