第76章 pierce
side.S
翔くんが、空けたから。
幼いままの笑みで、左耳の痛々しい穴を見せてきた。
それは恐らく、安全ピンか何かでしたんだろう。
ピアッサーを使わずに空けられた、血の滲んだ傷だった。
救急箱から消毒液と脱脂綿を取り出し、ひとまずは消毒をすることにした。
本当は、病院に行くのが確かなんだろうけどな。
だけども、それは、勿体ない。
「染みるだろうけど、我慢な」
「分かった。あんまり痛くしないでね」
潤の何でもない言葉で、ふしだらな妄想が膨らみかける。
あぁ、何をしているんだ。本来は心配するべきだろう。
否、これまでオレはそうしてきたじゃないか。
けども、今、胸の内にあるのは。仄昏い願望。
欲望という名前の、よくある"よくない"モノだ。
「やっぱ、無理矢理は痛いね。でも、お揃い。どう?」
「いいんじゃないか。合ってる」
無邪気な瞳に笑い返し、用済みのコットンを机に投げ遣った。
それから、何気無さを装って、耳朶に指を触れさせる。
一瞬、ぴくり、と潤が震えた。が、それはほんの刹那のことだった。
すぐに照れたように目を伏せ、はにかんでみせた。
何て、愛らしい。いじらしくて、いじましい。
およそソレは後輩に向ける感情ではないのだろう。
しかし、そんなことは詮無き事だ。
昔からそうだったんだから。
可愛くて小生意気で、手がかかって、少し煩わしいときもあって。
けどオレにとって、今も変わらず唯一無二の存在だ。
それに、だ。コイツだって別に純粋なだけじゃない。
つまりは同じ穴の狢なのだ。
例えばバレンタイン。
オレ宛てのチョコを捨てていたのを知っている。
それからその少し前の誕生日。
同じように女子からのプレゼントを処分していた。