第72章 修羅を燃やす other side
アルコールの力を借りて、それを言い訳にする。
もし何かしちゃっても、やり過ごせるだろうから。
何て、臆病。我ながらズルくなったなと思う。
「しょおくん、やっぱイケメンじゃん。ホント好き」
「かずはさぁ、楽しいの。飽きないし、ふざけるの好き」
「あーばちゃんは、癒されるじゃんか。好きだなぁ」
程好く酔いが回ってきたら、隣の彼に凭れて言うんだ。
思ってることは事実で、でもその中身はラブとかじゃない。
大事な彼らへ向かう感情は、家族へのものとほぼ同じ。
胸が苦しくなったり、やきもちを妬くこともない。
そういう穏やかな愛情。
俺が松潤に抱くのは、ドロドロしてて棘のあるものだ。
甘やかしてくれるのも、優しいのも、ちゃんと厳しいのも。
全部、俺にだけだったらいいのに。
俺だけにしてくれたらいいのに。
口元に浮かぶ笑みは、自分をバカにしたものだった。
「ほら。水、飲みなよ。明日に残るだろ」
コップを手渡され、ぽんぽんと頭を撫でられる。
心地好い感触にうっとりして、ほんの十何秒か、しあわせに浸る。
何てったって、まるで恋人にするような手付きだから!
けど、それは妄想だ。冷たさで喉を潤して、そう自分に言い聞かせる。
コクコクとゆっくり飲む。その間、いつも髪を梳いてくれるんだもん。
前髪を作ってても、今はゆるせる。寧ろ嬉しいくらい。
うまく出来たって顔で、俺を見て微笑むから。
だから、これで良い。これが良いんだと思い込む。
見ててほしい、追いかけてほしい。
好きになってほしい。なんて、高望みも大概だろうが。