第71章 修羅を燃やす
アルコールの匂いと、ほんのり朱に染まった耳。
酔いの勢いを借りて紡がれる言葉は、オレにとって残酷だ。
「しょおくん、やっぱイケメンじゃん。ホント好き」
「かずはさぁ、楽しいの。飽きないし、ふざけるの好き」
「あーばちゃんは、癒されるじゃんか。好きだなぁ」
何も無い空間に、リーダーが発した愛しさが溶けていく。
そう考えて、面白くなくなる。愛情が浪費されてるようで。
もし声にしなければ、それをもらえたんじゃないかって。
オレに向けてくれるんじゃないかって思ってしまう。
分かってる、分かっているんだ。
浅ましくて浅はかな嫉妬だなんて、分かりきってる。
ほんのちょっと唇を噛んで、それから少しだけ深呼吸をした。
要らないことを言わないように、自戒しなきゃいけない。
こうして甘えてこられるポジションを、誰かに渡したくなんかないから。
「ほら。水、飲みなよ。明日に残るだろ」
コップを手渡し、ぽんぽんと頭を撫でる。
可愛いからこうしたくなるし、拒否されないから続けてしまう。
すると不思議なことに、大野さんは笑うんだ。
それが何だか恋人みたいな、蕩けるような笑顔だから!
でも、それは都合の好い妄想。そんなの知ってる。
そう自分に言い聞かせて、何でもないように髪を指で梳く。
ゆっくり水を飲んでいる姿は小動物みたいで愛らしい。
オレが好きに前髪を作っても、勝手にさせてくれるから調子に乗りそうだ。
イイ感じだな、とついつい笑うと、笑い返してくれる。
それを自分だけが見られたら、どんなに嬉しいことだろうね。