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小話【気象系BL短編集】

第68章 話をしようか




side.S


いつだったか、きっと昔のことだ。
使いさしのノートを、潤にあげたことがあった。

とっくに捨てたとばかり思っていたそれが、机の上に置いてあったから。
お前の部屋に無断で入ったら、それを見つけてしまったから。
喧嘩にさえないから良いか、と半ば自棄だったオレはノートを開いた。


最後のページ、日付は一昨日だ。
だから、と書かれた先は黒く塗り潰されている。
何を書いたのか、全く見当がつかない。
オレは、まるでお前を知らないのか。あぁ、それと。


「何で……不安だって言わねぇんだよ」


舌打ちをして、髪を掻き毟る。
ひとしきりそうやって苛立って、それから気付く。
やっとで、気付いた。

オレが、不安だって言わせなかったのか。

思い返せば、何度か潤は言いかけてたんだ。何かを、言いかけてた。
それをオレは向き合って聞こうとしていなかったと思う。
パソコンを使っていたり、資料から目を離さずにいたんだろう。
そりゃあ、言えなくて当然だ。



もう間に合わないかもしれない。
けど、それは、まだ間に合うかもしれないってことだ。

逸る気持ちを抑えて、努めて冷静に画面を操作する。
変に感情的になったら、お前は言いたいことが言えない。
だから、ちゃんと喧嘩をしようと思った。
今だったら、仲直りだって出来る気がするんだよ。



「………もしもし」


電話口、小さく息を呑む音。
次いで鼻をすするのが聞こえて、堪らず胸が苦しくなる。
一緒にいたいから、一度だけチャンスをくれないかな。
切にそう願いながら、ゆっくり話を始める。
そんなオレの声もまた、涙交じりのようだった。


はなしをしようか、ふたりで。ふたりのことを。




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