第61章 白いのと黒いの
side.A
オレは、ねこを飼っている。
ずぶ濡れになってたのを拾って、それから家に住んでる。
意外なことに、遊び道具は買わなくても済んだ。
だけど。だから、かな。
仕事で不在になる昼間、何をしているのかは知らない。
遠くまで出歩いてないならイイんだけどさ。
当然、聞ける筈は無いんだ。
*****
ただいま、と言っても、答えは返ってこない。
代わりとでもいうのだろうか、部屋いっぱいのレモンの匂い。
搾りたてとかじゃなくて、分かりやすく人工的な匂いがする。
寝室のドアが僅かに開いていて、知らず知らず唾を呑み込んだ。
そこにいるってことは、どういうコトか。
もう分かっていたから。
「ただいま。ニノ、サト」
「……ん、おかえり」
「んー?おかえり」
オレのベッドで遊んでたのは、飼っているねこだ。
名前はニノとサト。それ以外は知らない。聞ける筈が無い。
ニノは白い。いっそ病的なくらいに。
サトは黒い。健康的だけど偶に焦げてる。
あー、またローション使い過ぎじゃん。
そう言いそうになって、慌てて口を手で塞ぐ。
ニノもそうだけど、サトも少しこういうとこに繊細みたいだから。
それに前に言ったからか、シーツの下にビニールシートが敷いてある。
ということは、今日も買い物に出かけたんだ。
どこまで、とか。誰かと会わなかったの、とか。
聞きたいと思うけど。思うのに、いつもいつも聞けない。
ううん、オレは自分の意思で聞いてないんだ。
「マサキ、今夜はどうする?」
「どっちでもイイかな。取り敢えずさ、シャワー入りたい」
ニノが立ち上がって、オレのネクタイに指をかける。するりと簡単にほどかれた。
シャワーは後ってことですかねぇ。
まぁ、いいか。だって愉しいし、気持ち好いし。
そう自分に言い聞かせてるうちに、腕は勝手にニノの腰を抱く。
オレの体は、とっくにオレの言うことなんか聞かない。
ベッドにそっとニノの体を横たえると、サトからキスをされる。
呼吸がしづらくなる寸前で、サトが離れて自分の唇を舐めて笑う。
その表情が妖しくて、自然と目が釘付けになった。
それから今度は、ニノとサトが濃厚なキス。
ごくり、と喉が鳴る。