第56章 ココアに浮かぶマシュマロ
side.O
ぷはっと小さな息継ぎが聞こえた。
それは俺のものだな、と冷静に考える自分がいる。
欲望とそれ以外の何かに揺れる瞳を、じっと見つめてみる。
キスをするようになったのは、何がきっかけだったっけ。
気まずそうに目が伏せられるのを見て、ふと思い返すことにした。
酔った勢いでもなく、罰ゲームでもない。
じゃあ、何でキスをするんだろう。
どうして、こんなに気持ち好いんだろ?
好いと感じてるのは、俺だけ?それは違わなきゃ困る。
「お前も、気持ち好い?」
少し上にあるその頬を指でなぞる。
微かに身震いしたコイツは、何かに怯えてるようにも見えた。
「っ、そりゃあ、イイに決まってるだろ」
強気な発言とは裏腹、ばっと逸らされた視線。
自覚あるか知らないけど、俺といると偶にそうするよね。
ソレ、かわいいから好きだよ。
そうそう。潤はね、かわいい。カッコいいのと同じくらい。
目が離せないんだよな。ずっと、見てられるもん。
例えば、今のつっけんどんな言い方だって。
俺からしたら凄くかわいいんだ。
慣れてそうなのに、ちょっと動揺してる感じもイイよね。
他では見せない顔が、堪んない。だからさ、もし。
もしも、俺以外ともしてたら?
気持ち好さそうにキスして、笑ってたら?
それはイヤだ。上手く言えないけど、そう思う。
「俺はね?手放したくないくらい、いいの」
ゆるりと笑えば、潤はまた遠くへと目線を遣る。
そういうのも様になるんだから、安売りしてほしくない。
そう、強く思った。
だって、俺としてる癖に。
キスを仕掛ける潤は、俺のなのに。ゆるせない。
と、そこまで考えてみて。
そっか、俺はコイツが好きなんだ。なんて、腑に落ちた。
それなら話は早い。
俺のになってほしいなら、そうすればいいだけだ。