第52章 パンケーキにメープルシロップ
side.N
天使みたいだって、柄にもなく思ってる。
そんな恋人が言ってくれるから。面映くて、こそばゆくて。
好き、愛してる。傍にいて、ずっと一緒だから、とか。
幸せを感じるのに、捻くれた俺は素直に受け取れやしない。
「恥ずかしいんですって、ソレ」
緩んでしまった口元を、袖口で隠して告げた。
一瞬にして曇っていく表情に、罪悪感が無い訳ではない。
アナタをそんな風にさせたいんじゃないんだよ。
出来ればいっぱい笑っててほしいの。
ただ、何て言うんでしょうね。
おんなのこみたいって思っちゃうんですよ。
大切にされて嬉しい癖に。そうされないと不貞腐れる癖に。
「男同士なのが、恥ずかしい?」
「いいえ?まさか。そんなのどうでもいいよ」
「なら良いけど。でもさ、教えてくんなきゃ困る」
きゅっと両手を握り締め、彼はそこに視線を落として言う。
彼が悪いんじゃなくて、天邪鬼な俺がいけないってだけだ。
でも、治りそうもないから打ち明けるのが怖い。
ホントを言うのは怖いよ。
それにさ、こんなときでも若干嬉しくなっちゃうんだ。
アナタが俺にご執心なんだって、幸せを感じてしまう。
だって、ね。潤くんはきっと天使か何かだから。
ほんの少し翳った横顔こそ、独り占めしたくて堪らない。
実を言うと、ちょっと、よごしてしまいたくもなる。
「教えてもイイですけど、もう暫くだけ待っててくれる?」
俺は狡いから、猶予を請うんだ。
そう、暫く。それがどれくらいの長さかは知らない。
だけども、これでも急いではいるんだ。相応しくありたいって。
愛したがりで愛されたがり。
そんなアナタと一緒にいたいんだもの。