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小話【気象系BL短編集】

第47章 2018/0214



【MさんとOさん】

side.M


部屋に入ってまず、苺の匂いだ、と思った。
生と比べると、瑞々しさの抜けた感じ。
かさり、と音がして、オレはそちらへと目を遣る。

家主のようにソファに陣取る、愛しいひと。
ピンクの包み紙らしきものがテーブルに散乱してるけど。


「ただいま。それ、懐かしいね」

「おー、おかえり。つい買っちまった」

「へぇ…一つ頂戴?やっぱ……今もダメ?」


オレの問いに、大野さんは目を瞬かせた。
昔、駅でよく買い食いをしてたチョコレート。
全く同じではないけど苺味だからか、懐かしさを感じる。

一人で買って食べ、それに文句を言わせないような空気があった。
そりゃあ美味しそうだし、いいなぁとは思っただろうけど。


「お前用に別のあるぞ?」

「ぇ、マジ」

「マジで」


リーダーの言葉に、思わず耳を疑う。
用意してないだろうと思ってたから、本当に驚きだ。

付合い始めて、最初の2月14日。
正直、期待してない訳じゃあなかった。
落胆するのが怖くて、意識しないように必死だった。

それが気まぐれかもだけど、オレ宛てにあるなんて!


オレは大野さんにと買った袋をそっと置き、少し足早にソファへ近付いていく。
不思議そうな様子を一瞥し、身を屈めて顔を覗き込んだ。


「ちょっとごめん、リーダー」


一言、形ばかりの謝罪をした。
え、と声を漏らした唇を、自分のそれで塞いだ。
逃げないように後頭部へと手を回して。


目を閉じて数秒、何となく落ち着いたから離れてみる。
ぱちぱちと瞬きして、リーダーが首を傾げた。
何か、居た堪れない。



「………ハッピーバレンタイン、なんてね」


冗談めかして言うと、今度は大野さんに引き寄せられる。
そして仕返しなのだろうか、やや強引に口付けられた。


苺が香る、オレがしたものより濃厚なキスだった。







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