第46章 かわいくない
【SさんとNさん】
side.S
愛してる。
そう伝えても良いかと尋ねれば、首を横に振られる。
自分が言うんだ、と真っ赤な顔でニノが言った。
そうして黙ること数秒、痺れを切らして口を開けば。
「あいしてる」
「愛してるよ」
照れ隠しか、素気無く聞こえる君の声。
堅苦しさすら漂う自分の言い方。
その差が何だか面白くて、笑みを零すと即座に睨まれた。
「ワタシがって言いましたよね………何なんですか」
「ごめん。お互いにさ、慣れてねぇなぁって可笑しくて」
「えっ。翔さん、モテないんですか」
「お前も大概、失礼じゃねぇか」
軽口を叩くニノが、少しシニカルに笑う。
でも、その目元はいつもより柔らかく見えた。
素直に、いいなぁと思う。
可愛いとも称される外見や仕種とは裏腹に。
結構オトコって感じの内面を持ってるんじゃないかと。
前から思ってたけど、付き合ってから更にそう思う。
そうやって自分が持つ情報が更新されるのが楽しい。
ゆくゆくは、オレだけが知ってる部分が欲しい。
今すぐじゃなくて良いから。
「愛してる、とかさ。当たり前になったら良いよな」
「キザですねぇ……ま、いいんじゃないですか」
皮肉が交じるのも、ちょっと冷たくあしらわれるのも。
可愛くないと言われそうなところが、どうにも可愛く思えてならない。
あぁ、コイツのこと好きだなって。
今更のように、しみじみと実感する自分がいる。
さて、目下の課題は。
割と男っぽいニノに、どう自然に”可愛い”と言うか。
難題だと考えつつ、楽しそうだとも感じる。
好きなヤツを自分の色に染めるってロマンだよな。
意識してニヤリと笑えば、想像した通りに冷たい視線が返って来た。
かわいくなくても、愛しくて仕方ないヤツだ。
なんて、少し恰好つけすぎかな?