第11章 小田原城再び
『傷がついてしまいましたね。後で手当てしますから今はこれで』
そう言って懐から手拭いを取り出し傷口を押さえると、もう片方の手でそっと涙を拭ってくれた。
小太郎は騒ぎを聞いて駆けつけた者たちに他言無用と釘を差し、その場の処理を細かく指示する。
『今夜は一番安全な主の部屋で休みましょう。私から話をします』
確かにこの状況では氏政の部屋が一番安全だ。
この様子では他に休める場所などない。
『はい、お願いします』
今はそう答えるしかなかった。
廊下に出ると小太郎に手を繋がれる。
あんな事があったばかりなのでこれは護衛のためだと直美は全く気にしていなかった。
『もう誰にも貴女を傷つけさせません』
小さく呟いた小太郎の言葉は直美には聞こえていなかった。