第39章 膝枕と戦女神
春日山城、謙信の部屋では。
直美の膝に頭を預けた謙信が目を閉じて気持ち良さそうに眠っている。
(本当に寝ちゃってる……それにしても綺麗な顔立ちだな。色白だし髪もさらさらでちょっと羨ましいかも)
心の中の声は次第に本物の声となって口から出始める。
『最初はそっけなくて、斬るって言われた時は本当に驚いたけど…信長様の敵が必ずしも悪者ではないって事に気づいたし、今回もお荷物でしかない私をここに置いてくださってありがとうございました。お礼はどうしようかな……』
指先でそっと謙信の髪に触れる。
と同時に聞こえる声。
『礼ならば口づけで良いぞ』
『!?謙信様、いつから起きてたんですか!!』
『そうだな、斬るとか言ってた辺りだ』
『ほとんど全部じゃないですか!!』
変なことは言っていないはずだが、聞かれていたとなるとこれはあまりにも恥ずかしい。
『で、お礼はどうした』
今回は正面からでも上からでもなく、下からオッドアイの瞳に見つめられる。
『わ、わかりました』
膝枕をしたままゆっくり優しく口づけを落とした。
わずか数秒、そのまま後頭部を押さえられ口づけたままの態勢となった。
『ん……んんっ………』
(…っ!お礼って!!)
唇が触れるだけの口づけをほんの数秒続けたところで、廊下から景家が謙信を呼ぶ声が聞こえる。
『謙信様、お取り込み中のところすみません。準備が整いましたのでいつでも出立可能です』
『すぐに行く』
景家の足音が遠ざかると謙信は立ち上がり、再び触れるだけの口づけを交わした。
『邪魔が入ったな。すぐに戻る』
『はい。お気をつけて』
『留守の間、自分の部屋を出るな。信玄には指一本触れさせるなよ』
『ふふっ、わかりました。大丈夫ですよ』
隣にある自分の部屋まで送ってもらうと、最後にまた触れるだけの口づけを交わして謙信の後ろ姿を見送ったのだった。