第39章 膝枕と戦女神
『じゃあ俺は城下町で刀を新調してくるかな。丸腰ではいざというときに守るべきものを守れない。一刻経つ前には戻る』
信玄は肩まで上げた手をヒラヒラと動かしながら広間を出ていく。
『皆、行っちゃいましたね』
広間には謙信と直美の2人だけが残されていた。
(あ、そうだ。着替えてこようかな)
馬で移動するために袴をはいていたのだが、もうその必要はない。
自分の部屋に移動しようと考えていると、謙信に手を引っ張られ無言のまま広間を後にした。
『謙信様!?どこに行くんですか?』
『俺の部屋だ』
『え?謙信様のお部屋?』
そのまま止まることなく歩いて行き、謙信の部屋の中に入ると思いもよらぬ言葉をかけられた。
『疲れた。少し休むから膝を貸せ』
『え……膝ですか?』
『そうだ、少しでいい。早くしろ』
まさか膝枕をねだられると思わず、聞き返してしまった。
言われた通りに部屋の中央に腰を下ろすと膝の上に謙信の頭が乗り、ほどなくして静かな寝息が聞こえてきた。
(あっ、もう寝てる。きっとお疲れになってたんだよね。それにしても謙信様の寝顔、初めて見たかもしれない)
謙信が目を覚ますまでのしばらくの間、春日山を発ってから戻ってくるまでに起きた様々な出来事を思い出す。
(色々あったけどこれで良かったんだよね…とにかく今は信長様が迎えに来るのを待とう)
謙信の寝顔を見つめながら今回お世話になったお礼は何がいいか、最後にはそればかり考えていた。