第32章 春日山城
『あの、謙信様、嬉しいんですが御影がいるから大丈夫ですよ!お気持ちだけで結構です。一人で2頭も管理出来ないですし』
『ならばお前との共同管理にする。放生月毛(ほうしょうつきげ)、俺の愛馬だ。春日山にいる間は好きに使え』
そう言われて案内された先にいたのは真っ白い馬だった。
ラインが綺麗で、品があって、一目見て謙信にはピッタリだと思わせる馬だ。
『ありがとうございます』
(共同管理…怪我でもさせたら大変だから一人で乗るのは絶対にやめとこう)
『では出掛け直すぞ。放生月毛に乗せてやる』
謙信は愛馬の手綱を握って外に連れていくと、まず自分が背に乗り、直美をひょいっと上から持ち上げて自分の前に横向きに座らせる。
(軽々と持ち上げちゃうなんてやっぱり凄い)
『どこにいくんですか?』
『どこに、か。まだ決めていない。気晴らしに走らせるだけだからな。しっかり捕まっていろ』
(あ、この台詞は前にもあった。小田原城から春日山城に移動する時だ。あの時は消去法で謙信様の馬に乗せてもらったんだっけ。何だか懐かしいな)
『では行き先はお任せします!』
早すぎず遅すぎず、絶妙なスピードで馬は2人を乗せて駆け始める。
そして出発してしばらく経つと
『今度は馬に乗ったまま寝たのか』
馬の揺れが心地よく、いつの間にか謙信に寄り掛かりながら熟睡してしまったのだった。