第31章 蘭丸
佐助は家康が一人で歩いて行ったのを思い出していた。
『謙信様、家康さんが一人なんでちょっと行ってきます』
『女の一人歩きでもあるまいし。好きにしろ』
佐助は家康の背中を追いかけ、謙信と信玄はまだ誰も向かっていない方向へ歩いて行った。
佐助は家康の後ろ姿を見つけるとすぐに駆け寄り、それから2人で城下の見回りを続ける。
『家康さん、俺は今非常に感動しています』
『は?何に?真面目な顔していきなり何言ってるの?』
『一度こうしてゆっくり話がしたいと思っていました』
無表情で熱い視線を送りながら話す佐助とは対称的に家康の態度はそっけない。
もちろんそれはいつも通りの事なのだけれど。
『あのさぁ……先に言っておくけど俺は男に興味はないから』
完全に佐助の趣味を勘違いしているようだ。
『俺もです。同じですね』
『ちょっとさっきから何が言いたいのかわからないんだけど』
家康の警戒がすぐに解ける事はなく、2人はそのまま城下の見回りを続けていった。