第7章 風魔の忍
支城を巡る攻防戦は信長と直美の姿が見えないままひとまず区切りがついた。
だが信長はまだ直美を背に庇いながら城の右手で一進一退の攻防戦を続けていた。
兵の少ない右手から信長が来ると読んだ信玄は多くの兵を配置し、これは三成の戦略の裏をかくものだった。
確実に城には近づいているものの、今度は馬防柵に行く手を阻まれる。
『ここからは馬を降りていく。決して俺の側を離れるな』
『はい、わかりました』
だんだんと暗くなってきたせいで狼煙が上がっても目視で確認できない。
ゆっくりと城に向かって歩いていると、ふと信長の足が止まった。
それに合わせて直美もその場に立ち止まる。
信長は周囲をぐるりと見渡すと刀に手を掛け、見えない敵に向かって話しかけた。
『隠れてないで出てこい、始末してやる』
信長がそう言い終わったのと同時に男が目の前に現れ、周囲が白い煙に包まれた。
煙には何か特殊な効果でもあるのか、目に痛みが生じて瞼を上手く開ける事が出来ない。
信長も直美もその場から動けなくなってしまった。
『貴様、一体何者だ』
『先日、城下で贈り物をした者ですよ。今日はお返しにこちらの女性をいただいていきます』
『贈り物?あの物騒な落とし物の事か。貴様、風魔だな。北条は何を企んでいる?』
『天下を統一するのは織田でも上杉でもなく北条だという事ですよ』
信長は直美を守ろうと刀を抜いて近寄るが、白い煙で視界が悪く右腕に攻撃を受けてしまった。
刀を握る手が痺れ、力が弱まっていく。
『何の毒か知らぬが正々堂々と勝負も出来ぬ腰抜けらしいな』
『徳川になら解毒出来るかもしれませんね、間に合えばですが』
信長は地面に片膝をつき、苦しそうに肩で息をしている。
『信長様!!』
男は直美に近寄ると毒を塗ったクナイを首筋に滑らせた。