第30章 褒美
安土城に戻った日の夜。
直美は信長に言われた通り天主に向かう。
褒美が欲しいのではなく、久しぶりに信長とゆっくり会話が出来るのが嬉しくて気づいたら早足になっていた。
『信長様、直美です。入ってもよろしいですか』
『来たか、中に入れ』
襖をそっと開けて天主の中に入る。
信長の正面に座ると、それだけで大きな安心感に包まれた。
『色々あった様だな。まずは貴様の口から聞かせろ』
こんな一方的な言い方すらも今は懐かしく、心地よく感じるのだから不思議だ。
言われた通り、茶会に行ってからの出来事を自分の目線から説明する。
『そういえば戦女神だとか言われました。全然そんなんじゃないんですけど』
『言われた事に心当たりはあるか?火のない所に煙は立たぬと言うであろう。小田原城、春日山城、富山城のどこかで逃げ出そうとして元気良く暴れたのではないか?』
『うーん……暴れてはいませんけど、強いて上げるなら以前富山城の支城で毛利元就に懐刀を向けました。一瞬で奪われて、気がついたら船の中にいたんです』
『あの時か……それは上杉の懐刀だな』
やはり何でもお見通しだ。
『はい。実は信長様からいただいた懐刀は、信玄様の元にあるんです。なかなか言えなくてごめんなさい』
怒られると思ってずっと言えなかったけれど、やっと、ようやく信長に言えた。